陰翳礼讃

10月、長野のとあるお店での出来事。

雲間から陽光が差し込みあたりが明るくなった刹那、壁面に風でゆらめく枝葉の陰影が映し出された。この瞬間、ただのエクリュな壁が一瞬にしてドラマチックなスクリーンに変貌し、僕は見惚れた。

太陽が再び雲に隠れると、漆喰の壁にも静寂が訪れた。

光と風が織りなす束の間のワンシーン。同じ映像は二度と見ることはできないだろう。しかしこの時、僕は建築と自然が融解する美しさを体感した。いつ現れるともしれないこの自然がもたらす情景。

フレームで切り取るのではなく、映し出されるのをただ静かに待つ。そんな建築の在り方もまた、一つの借景といえよう。そんな想いが僕の心に深く刻み込まれた。